ワンチャンの所有欲とその対処法

2017.02.14

あなたのワンちゃんは、くわえた靴下をすぐに返してくれますか?

ドッグスクールで多く相談される事の一つです。
「ワンちゃんがくわえた物を返してくれないんです、無理に取ろうとすると、ウーと威嚇されるので、噛み付かれるんじゃないかと思い困っています。」

犬は、その辺にあった靴下やスリッパを見つけ出し、くわえて遊ぶのが大好き!
庭でコソコソしているなあと思ったら、落ちていたバーベキューで使った竹串を美味しそうにしゃぶっている!
せっかくボール投げで遊ぼうとしているのに、ボールを取りに行ってくわえたら、戻ってこないでそのまんま知らん顔!

ワンちゃんにとっては、魅力的なものばかり。
タレの染みた竹串、大好きなボール、あなたの匂いの付いた靴下。
特に危険な物や大事なものはすぐに取り上げたいのに、聞く耳を持ってくれず、取られまいと、逃げ回ったり、威嚇してきたり、もっと深刻になると噛み付くことさえあります。


飼い主さんが自分の愛犬への問題の対処と、トレーナー修行中の方が自分の犬以外の犬へ、くわえているボール等を「離せ」というコマンドを出したのに、聞き入れてくれないケース、その対処法をそれぞれ分けて考えてみましょう。

飼い主さんとその愛犬の場合は、こんなことが起こるのは、基本的な主従関係が確立されていないからだと言えるでしょう。
オビーディエンス(服従訓練)が出来ていないので、あなたの愛犬があなたの言う事を聞かないのです。
くわえたものを離さないという事の前に、くわえて逃げ回る犬や、戻ってこない犬はまず、呼ばれたら戻って来ると言うオビーディエンスをトレーニングする必要があります。
そして、くわえたものを離さないと言うのは、彼らの大好きな物を手に入れたのだから、渡したくない、取られたくないという気持ちが出てくる為、素直に飼い主の言った事を受け入れたくないのです。

これに対処するには、主従関係をはっきりさせ、強化する必要があるのです。
まずは愛犬に対し、戻しなさいと命令します。
1度言っても返さなかったら、2度目をしっかりときつく命令します。
この2度目が最も重要な意味を持ちます。
躊躇せずに犬がハッキリわかるよう命令する事が肝心です。
互いに信頼関係があり、可愛がっているからこそ強く出来るのです。
何が何でも口にくわえている物を離させるという強い気持ちと気迫を持って、愛犬に命令しなくてはいけないのです。
そうでなければ愛犬は遊びのゾーンに入り、返さないで逃げまわった挙句、取ろうとした主人に向かって威嚇したりするようになり、家庭内で支配性を強めていってしまいます。

一般の飼主さんにとっては犬に強く命令する事は大変かもしれませんが、是非頑張って欲しいのです。
どうしても出来ない時は、おやつと交換で、くわえたものを離してもらうという方法もありますが、これもなかなか難しいでしょう。

これらを試しても言う事を聞かず、愛犬が威嚇をしたり噛もうとしてきたら、その時はすぐプロに任せなければなりません。

さて次は、ドッグトレーニング修行中のうちの生徒さん達が困っている事です。
犬と一緒にトレーニングし、うまくできたなあと思いながら「次はご褒美だよ」とボールをくわえさせてあげると、さあ今度は「ボールを返して」と言っても犬はボールをくわえたまま頑として離さない。
何度「出して」と言っても出さない。
こんな膠着状態が何分も続いている。
そんな時生徒さん達は、「トレーニングの時はキチンと指示を聞いてくれていたのに、ボールとなると、なんで言う事を聞いてくれないの」と自分の力量不足や、まだまだ犬に認められていないのだとの思いからガッカリしているようです。
私は生徒さん達のそんな困った様子を何度も見かけたことがあります。

なにしろ「自分のご主人なら言うことを聞くけど、他人なら大好きなボールは返すの嫌だよ」という犬は多く、自分の主人と他人との力関係の違いを、犬は瞬時に見分けてしまうからなのです。
「よく知らない人には命令されたくないよ」との思いが強いのでしょう。
こんな場合は、犬とのコミニケーション不足が原因の一つだと思って下さい。
犬はいきなり親しくない人から何か命令されるのが大嫌いなのです。
犬と良い関係を充分に築きながら、自分を認めてもらうようにしていく事が大切なのです。

次回もまた引き続き、ワンチャンと良い関係を保つうえで、解決したい問題についてお話ししましょう。

英国 、日本では体験できない驚きのアジリティーの数々

2017.02.07

前回は世界にアジリティーを広めたロイ・ハンター について話しました。
日本では、アジリティーを好きな方でも殆ど知る人のないロイ・ハンターですが、彼抜きにはアジリティーの話は出来ない程、欧米では有名なドッグトレーナーなのです。

彼については前回のブログNo.8でお話ししたので、お読み頂いた方もいらっしゃると思います。
では早速、私が英国で実際に体験したアジリティーの話を始めましょう。

アジリティーはもともと馬で行うスポーツが起源です。
人が馬にまたがり、人馬一体となり共に様々な障害を乗り越え、ゴールを目指して頑張る。
これを英国で、犬と共に楽しむスポーツとして工夫され、現在行われている様々な形に進化させて行ったのです。

私が英国で体験したアジリティーの一つは、最も原型に近いものでした。
大きな美しい森の中の開けた所に倒れた大木や藪を利用してコースを設定するという、まさしくナチュラルという言葉がぴったりの素晴らしいものでした。

これが私の「 英国、アジリティーデビュー 」でした。

犬と一緒に森の中を散歩するのだって楽しく気持ちの良いものなのに、森の中で自然を利用しアジリティーが出来るなんて、どんなものだろうと参加の話を聞いた時にはワクワクしたものです。
そして実際に出場してみると、競技の勝ち負けより、素晴らしい環境の中でアジリティーを行える事に感動しました。

次に参加したのは、これがまたなんと乗馬チームと犬チームが一つのペアを組み
アジリティーを行うというものだったのです。
まず犬チームが決められた障害物を乗り越え、完走したら今度は乗馬チームが行うのです。

私は知り合いのドッグトレナーから借りたボーダーコリーとの参加でした。
ペアを組む乗馬チームの騎手は中学生くらいの少女でした。
始まる前、挨拶に行った時の彼女のちょっと見下した様な、ガッカリした様な眼差しは、忘れられません。
私のペアは、この東洋人のおじさんなの!
アジリティーなんて出来るのかしら?
こんな声がきこえてくる様な眼差しでした。
参加者の中で、東洋人は私一人。

失敗したら申し訳ないと思いながらの出場となりましたが、犬の優秀さに助けられ、順調なタイムで乗馬チームにバトンタッチ出来ました。
さらに私のペアの乗馬チームも頑張り、なんと2位の結果で終わることが出来たのです。
勿論、彼女も彼女の両親も大喜びでした。

3つ目のアジリティーは犬と共に大型のSUV車で駆け抜けるというものでした。
こんな大掛かりなアジリティーを犬と一緒に楽しむ、凄いなぁの一言でした。

先ず、一斉にSUV車がスタートし、ある地点で待機していた犬の元に乗りつけます。そして急いで犬を助手席に乗せ、さらに車は鉄板で出来たシーソーを通り、沼地やデコボコ道を走り、大木のスラロームを走り抜け、ゴールへと向かいます。
車の走行ラインそして到着タイムを競います。
犬はシートベルトをしていないので、犬の服従能力や怖がらない勇敢さ等も試される競技なのです。
この会場には秋田犬や柴犬も多く、日本では見かけない犬も参加している事に感動を覚えました。
勿論、競技自体もダイナミックで車好きも犬好きも楽しめるユニークなものでした。

最近もクラフト展でアジリティーやフライボールのイベントを数多くやっていましたが、英国には日本では考えつかない、思っても見ない様なアジリティーが存在するのです。

アジリティーという分野を見ただけでも、とても興味深いと思うと同時に、英国の犬との歴史の長さや違いを感じさせられるのです。
このように私が英国で見聞きしたり体験したことで、私がいつも感じてしまうのは、日本はまだまだ犬との歴史が浅いなあということです。

今回も私のブログを読んで下さり有難う御座います。
もし読者の皆様が、「 犬に関する事で、こんなのブログで話して欲しい!」という話題がありましたら、可能な限りお話しさせていただきます。

アジリティーを世界に広めた男

2017.01.31

アジリティー発祥の国と言えば 「英国 」
この事は、多くの愛犬家の方もご存知と思います。

でも、 英国の著名な訓練士であった「 ロイ・ハンター 」が、アジリティーを世界に広めたということは余り知られていません。

私がロイ・ハンターの家を初めて訪問した時、庭には広い芝生があり、その上に木組みのアジリティーが置かれていました。
それらは普通に使用できる様なアジリティーではなく、とても可愛らしいものでした。
何故こんな使えない様な、可愛いアジリティーを置いているのかな?

彼と話すうちに庭に置かれたその可愛らしいアジリティーに、彼の強い思いがこめられている事を知りました。

ロイ・ハンターと言ってもご存知の方は少ないと思いますので、彼のプロフィールについて、そして先程述べた彼の強い思いについてお話ししましょう。

彼は私の最も尊敬する訓練士の一人で、知識、技術はもとより人間性も素晴らしい人でした。
彼はこの時すでに車椅子生活で、しかも体調も良くない状態でしたから、訓練士としての仕事はもうしていませんでした。
でも、彼に会えた事、しかもお宅にまで訪問出来た事は私の一生の思い出となりました。

彼は16歳で英国陸軍に入隊、そこで軍用犬、テロリスト犬の育成に務め、40歳を過ぎてからは、英国及び米国陸軍への軍用犬の扱い方の指導にあたりました。

退役後はペットドッグの普及に努め、AADT(アングロアメリカ ドッグトレーナーズ協会)を設立、英国だけでなく米国をも含めてドッグトレーナーの育成、指導にあたりました。

日本でペットドッグの普及に努めたイアン・ダンバー、JAHAが招致したテリー・ライアン、ジョン・アンクル、アラン・メンジーズといった著名なドッグトレーナー達も彼の協会に加入し彼の指導を受け、メンバーとして活躍しました。
私もこのメンバーの一員です。

多くの英国、米国のトレーナー達は、彼の本を読みトレーニングを学んだと言われています。
私共のスクールの提携先代表リン・バーバーも若い頃彼の本を読み学んだそうです。
この様に彼は多くの著名なドッグトレーナーに多大な影響を与えました。
これらのことからも、ロイ・ハンターの偉大さがわかっていただけるのではないでしょうか。

彼は私に古いアルバムを見せながら、陸軍時代の話をしてくれたのですが、写真のほとんどは、マリノア、ジャーマンシェパードでした。

「屈強な犬達を扱う軍用犬育成に人生を捧げていた貴方が、何故アジリティーを世界に広めようと思ったのですか?」疑問を感じた私は彼に質問しました。

彼の答えはこうでした。
「 私は仕事とは言え、数多くの犬達を国家の為に、死に至らしめてしまった。
こんな私でも、犬達に好かれて人生を終えたいんだよ。
だからこそ人と犬とが楽しめるトレーニングを広めようと思ったのさ。」

それを聞き、私は彼の庭の可愛いアジリティーの意味が分かりました。
“犬と楽しむ” という彼の強い思いの表れだったのだと。
彼の歩んだ犬達との険しい道があったからこそ、英国発祥のアジリティーは、世界に広まる事となったのでしょう。

現在日本でもアジリティーの人気は高く、世界大会で2位を取った方もいます。
JKCの競技会の中でも、アジリティーの参加人数は群を抜いている様です。
今後もこのアジリティー人気は続くことでしょう。

次回は、日本ではお目にかかった事のない、英国で私が実際に体験したアジリティーについてお話しします。
ぜひご覧ください。

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